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静岡スタジアムエコパ チェック報告

文責:バリアフリーチェックPT
(<日本―在日―韓国>ユースフォーラム・ジャパン/DPI日本会議)
調査済み・予定の競技場の一覧はこちら

○今回のチェックは…静岡スタジアムエコパ(静岡県袋井市)

  • 日時:2002年1月11日(金) 13:20〜16:00
  • 場所:
    • JR東海道線愛野駅―(徒歩25分)―静岡スタジアムエコパ(東京―掛川間は東海道新幹線利用)
  • 参加者:16名(フォーラム1名、DPI3名、静岡の障害者団体(障害者サポートセンター、自立生活センター、静岡車いす利用者の会、など)から12名 うち障害者13名参加)
  • 会場側からの参加者:6名(県職員(運動公園整備室長、運動公園整備室主幹)、市建設経済課、福祉担当など)
  • マスコミ:静岡新聞、朝日新聞、読売新聞、中日新聞、NHK、静岡第一テレビ、静岡朝日放送
    なお、この事業は「平和と人権に基づく日韓市民交流を促進する日韓NGO共同プロジェクト」の一環として、財団法人 庭野平和財団から助成を受けています。

○その1 超特急のバリアフリー

いよいよW杯本番、2002年がやってまいりました! みなさま、今年も日韓バリチェPTをよろしくお願いします…とはいえ、もう正月気分も消えかかったところ。「仕事始め」は、ちょうど5回目(やっと半分!)の静岡チェックから。札幌同様4名の参加となった東京組は、東海道新幹線―東海道線を乗り継ぎ、最寄駅の愛野(袋井市)を目指すことに。

長居、カシマに続いて利用するJR東京駅。継ぎ足し継ぎ足しでつくった駅は、車いす利用者には非常に使いづらい構造になっている。カシマチェックの際利用した総武線快速ホームは駅舎の外にあるエレベーターで移動し、その他の路線は駅舎内の「関係者用通路」をつかってホームに向かわなければならない。今回は東海道新幹線で掛川まで向かうので「裏道」を通って行くことにした。基本的に駅員を呼ばないと使えない通路なので、エレベーターは駅員が管理する(使用時以外は鍵をかけてある)タイプ。エレベーターは18人乗りと広めだが、行こうと思ってすぐ使えないのは困りもの。

新幹線の車両は車いす利用者用の席がないものの方が多いので、車いす利用者はデッキに落ち着くか、11両目にある個室(車いす利用者席兼用、指定席)に行くしかない。 私たちは自由席特急券を買っていたのでデッキに乗り込む。新型車両には車いす利用客のスペースをとっているものもあるので、旧型も更新してほしい。それにしても、こだまは結構混んでいた。

新幹線各駅停車は、約2時間弱で掛川駅に到着。目指す掛川駅はこの次なので、ローカル線に乗り換える。一応、東海道新幹線の駅(ただし新幹線ホーム)にはみなエレベーターが設置されているようだ。ただし、これも東京駅同様駅員が鍵で管理している。別に盗まれるようなものではないのだし、開放してもいいと思うのだが…。


静岡にワールドカップを見に来る観客の多くが利用するだろうこの掛川駅、新幹線ホーム以外はバリアフルになっている。新幹線改札口は車いす利用者が通れない幅(エレベータは普通路線の改札を抜ける形)の上、ここは階段しかない。なんだかカシマチェックの際の鹿島神宮駅を思わせる展開だが、事前に連絡が行っていたこともあってか駅員は「チェアメイト」という昇降機を用意していた(カシマで駅員が使わなかった設備も、多分チェアメイトだろう)。随分大掛かりな仕掛けのように見えるが、要するにキャタピラーで階段をよじ登るというもの。利用したOさんによれば「ガタガタして怖い」とのこと。段の奥行き、高さとキャタピラーのかみ合わせが多少悪いらしい。それほど問題なくホームまで行けたが、Oさんが降りたあと、駅員はこっそりチェアメイトの練習に励んでおり、十分に使いこなせていないことがよく分かる。チェアメイトは1台しかないことも、W杯試合時の対応に不安を抱かせる。私たちのチェックは「最寄り駅からスタジアムまで」が守備範囲だが、実際には周辺の交通機関も利用して観客はやって来る。スタジアムだけ整備してもW杯がうまくいくものではないし、ましてやその後も利用するとなったら周辺環境の整備は当然すべきだろう。


○その2 駅にまつわるエトセトラ

掛川から5分ほどでいよいよ最初のチェック地、愛野駅へ。スタジアムのためにつくった駅(袋井市の東端にある)であり、周辺は非常に閑散としていて、埼玉チェックで利用した浦和美園駅と似た感じだ。設備面も浦和美園駅同様に、バリアフリー/ユニバーサルデザインを考えたものになっているようだが、実際のところはどうだろうか? 遅れてやってきた地元の障害者の方(車いす利用者、視覚障害者の方ほか12名)、会場側の県職員・市職員と合流し、早速チェックをはじめる。

駅にはホームに1機、出口に2機のエレベーターが設置されている。出口側のエレベーターには、下の写真bにあるような音声誘導が設置されている。エレベーターに近づくと位置情報等を知らせてくれる。これは札幌ドームにあった設備と同じだ。またこの装置は、市販されている「エコカード」というカード型の受信機を持っていると、付近に近づけば情報が聞けるようになっている。なお、エレベーターは11人乗りだった。

改札(1ヶ所、うち二つ(自動、有人)が車いす利用者対応)を抜けた目の前に、写真a(傾いているのは撮った人のせいです、念のため)のような案内図がある。少し見づらいが、触地図と音声案内板の両方を兼ねている。これもまた、エコカード対応になっている。ただし、改札口の音声誘導はない。

コンコースは南北にとってあり、点字ブロックが敷かれているほか文字情報を伝える電光掲示板も一基設置されている。これまでチェックした駅の中では、視覚/聴覚障害者への情報保障のための設備が非常に充実していて高評価…

と言いたいところだが、実は素直にそう言えない。このコンコースを含め、愛野駅は、静岡県と袋井市というふたつの自治体がつくったようなものなのである。スタジアムを含めた「小笠山総合運動公園」区域整備の一環として駅を設置し、その中でユニバーサルデザインの駅をつくりたいという自治体側の考え(静岡県福祉のまち条例を最低限のラインとした設計)、また設計段階から地元当事者との意見交換を積み重ねた結果として、こうした設備ができたといえる。それゆえ、このような設備が主にあるのは、JR東海の管轄外の区域だったりする。

静岡県は、県知事直下に「ユニバーサルデザイン室」というセクションをもうけている。そこでバリアフリー/ユニバーサルデザイン施策を独自に展開しており、いくつかの施策は国のそれより優れたものがあるという。自治体の積極的な姿勢がうかがえる。

それでは、JR東海の手による設備はどうだろうか? まずは券売機。外観はJR東日本のタッチパネル券売機に似ているが、こちらはボタン式。タッチパネル機に比べボタンの位置が高く、また他の駅同様、車いすが入るスペースもとられていないので車いす利用者には使いづらい。視覚障害者への情報保障という点では、点字料金表、触地図がひとつずつ設置されているが、視覚障害者の方からは「点字版があるのはいいが、音声案内が(写真aにあった)ひとつしかないので場所が分かりにくい。こちらにも音声誘導があれば…」という意見が聞かれた。視覚障害者にとっては「それがどこにあるのか」という音の情報が非常に重要で、単に点字表示があればみな分かるというものではない(点字の読み取りを皆ができるわけではない)。「バリアフリー」は何かひとつのモノで済むのではなく、様々な種類のものが、複数あって実現する―実際に一緒にチェックをしてみて、改めて身をもって気づかされた。

右の写真を見て頂ければわかるとおり、点字ブロックのそばには柱がドンと立っている。視覚障害者の方の話をうかがって初めて分かったのだが、点字ブロックは必ずしも「その上を歩く」ものではない。つえで点字ブロックの感触を受け取って、方向を把握する人も少なくないという。そうした人たちにとって、不用意に立っている柱は大きな障害になってしまう。会場側職員の方の話を引けば、「点字ブロックの周囲30cm以内に障害物がないようにする、という国の基準は満たしているが、結局それは実態に即したものではなかった」ことになる。全体の設計と設備がマッチしていない「いい例」になっている。

左上の駅の外観図で黄色く示された部分は点字ブロックが敷設されている部分だが、下図の写真を見ていただくと分かるとおり、窓口の周辺には点字ブロックが敷設されておらず、なぜここだけ点字ブロックを敷かなかったのか、不思議に思われた。高額切符を買ったり、問い合わせをするとき、視覚障害者はどうすればいいのだろうか?

さらに気になるのは、左下の写真。少々見にくいのでこちらに書き写す。

<ご案内>
 車椅子ご利用のお客様にお願い致します。
  • ご乗車の2日前までにご連絡下さい。
  • 係員がご案内致します。
<下部―説明文>

係員がホームまでのご案内と、列車への乗降のお手伝いをさせていただきます。係員の手配のためにお時間をいただく場合がございますので、お待たせしないでスムーズにご案内させていただくため、ご面倒ですが、ご乗車の2日前までにご旅行を開始する駅、またはテレフォンセンターにご連絡いただきますようお願いをいたします(以下電話番号―略)。

このような「ご案内」が、どれだけ車椅子利用者に嫌な思いをさせているかを、JR東海はご存知ないようだ。「ハタ迷惑だから事前に連絡を入れろ」という思惑から出たものでしかないことは、障害者の方からしばしば聞く、JRの応対に関する話を聞けばよくわかる。これを聞くと障害者は「思い立って旅行」したり「ぶらり旅」してもらっては困る、という話になる。「スムーズなご案内」とはあくまで駅側の都合でしかない。いつ何時誰がきても対応する体制なり姿勢を万全にすることこそが、「旅客会社」にまずもって求められると思うのだが。

 

JR東日本では、当事者の抗議を受けこうした「案内」はほとんど撤去されているが、ハナから障害者の話を聞く気がないJR東海は、これに関わらずバリアフリー/ユニバーサルデザイン、職員の対応等について障害者との「話し合い」も一貫して拒否しているという。愛野駅は「例外中の例外」の駅であって、JR東海は静岡県や袋井市に対しても「他の駅とのバランスを考慮してほしい」と、ユニバーサルデザインの設計や設備にたびたび難癖をつけてきたそうだ。愛野駅が比較的好印象なだけに、この話はショッキングであった。JR東海には、こうした駅を更につくる気はさらさらないのだろうか?

その他駅構内の設備としては、飲料自販機、公衆電話それぞれ2機のうち1機がユニバーサルデザイン仕様になっている。これは市が導入したものだそうだ。


駅チェックの最後は、トイレについて。駅構内(改札内)にひとつ、駅舎の外にトイレがあり、ユニバーサルデザインのトイレ(こちらでは「ファミリートイレ」という名前で、スタジアムを含めて統一している)は駅構内1つ、駅舎外に2つ。他のチェック地域に比べて多い。ファミリートイレというだけあって、これらトイレにはベビーベッドが設置されている。スペースの都合もあるだろうが、ユニバーサルデザインのベッドだったらなお良かった。

一般用トイレを含め、紙は完備されている。鏡は縦長フラット、洗面台も適度な広さのようだが、水洗ボタン、非常用ボタンの位置がやや奥まっている(駅構内)。身動きのとりづらい人には利用しにくい位置だし、非常用ボタンは下部にも欲しい。一般用トイレはフラットだが、大便器の入口が狭くつかえなさそうだった。

下部の写真は駅舎外のファミリートイレ。二つならんでいる。いずれも男女兼用となっている。こちらには水洗ボタンがなく、ノブにチェーンを15cmほど垂らしただけのつくりになっていて、駅舎内のものよりも使いにくくなっていた。非常用ボタンはつくりは異なるがこれも奥側に設置されている。

駅舎内、駅舎外ともにトイレの触地図が設置されている。ただし外の触地図はトイレからやや離れたところにあり、点字ブロックも職地図の前で止まっている。点字ブロックのサイドに無駄に出っぱった柱もあり、随分と不親切な印象を受けた。


愛野駅は、他の駅に比べ「ユニバーサルデザイン」を強く意識し、また実際にそうした設備を整備している点では基本的な評価は高いと感じた。ただ、今回視覚障害者の方とのチェックで、あらためて「当事者の声」を聞くことの重要性を感じた。視覚障害者にとっても、また設備を整備する側にとっても、「声」は重要だ。


○その3 丘を越え行こうよ

そんなこんなで駅チェックを終え、いよいよスタジアムへ向かう。埼玉スタジアム同様の専用歩道(車道もあるが、歩道が両サイドに広く取ってある)は距離も埼玉と同じ程だが、こちらは坂道。山の上にあるようなスタジアムなので、手動車いすの利用者にはキツイ。W杯開催時はそんなことはないだろうが、チェック時はまだ工事中の箇所も多くところどころフェンスもあって視覚障害者の方は歩きにくそう。道中はところどころベンチがあって一休みできるようにはしてあるが、せっかくならトイレもつけて欲しかったところだ。しばらく歩くと「歩行者ゲート」に行き当たる。こちらにも触地図、音声誘導がついているが、ここも点字ブロックのそばに外灯がある。視覚障害者の方と一緒にチェックしてみてこそ分かるが、普段私たちが何気なく感じるものでも、いつ障壁になるか分からないものだ。

このゲートから斜面を30mほど上ってようやくスタジアム前のコンコースに出るのだが、こちらには「スロープカー」と「動く歩道」のふたつの設備が用意してある。20人乗り(座席もあるのでこれより狭い印象を受ける)のスロープカーは車いす利用者向けの設備として設置したもののようだが、往復で3分ほどの時間がかかる。レールが一本しかなくややグラグラするし、なによりたくさんの観客を運ぶには適していない。静岡スタジアムをふくめ、小笠山運動公園一帯は、2003年の国体(障害者スポーツ大会も含む)のメイン会場として使われるようだが、そうであればなおさらこの点は考えてほしかった。20人乗りと言っても車いす利用者が20人乗れるものではなく、多くの車いす利用者がこちらに来た場合、かなり待ち時間がとられてしまう。地元の障害者団体では設計時から「エレベーターの設置」を求めていたそうだが、高さの関係などからだろうか、受け入れられなかったようだ。動く歩道も含め、職員がいなくても動かせるのはいいと言えば言いのだが…。

「動く歩道」は新宿駅近辺に設置されているものがエスカレーターになったと考えてもらえばいい。エスカレーターの段がなくなったもの、とも言える。昇降口の部分がフラットになっており安全性を考えていると感じられる部分もあるが、エスカレーターほどではないにせよ、やはり車いす利用者にとっては落下の不安がつきまとう。スロープカー、動く歩道ともに音声誘導があるが、動く歩道には英語の音声誘導もあった。

コンコースに出てまたしばらく歩く。点字ブロックはサイドにひとつずっと伸びており、スタジアムの手前に先程同様の案内板がある。スタジアムの中は基本的に「人的対応」になるとのことだが、スタジアム内にもこうした設備があって困ることはないのではないだろうか。


○その4 いよいよ、スタジアムをチェック!

駅から歩くこと25分、ようやくスタジアムに到着。券売のカウンターは、車いす利用者も使用可能な高さのものが両サイドに設置されているが、観客席までの通路は階段になっている。スタッフ用(車いす利用者向け兼用)のエレベーターも1基あるようだが、普段の試合開催時はスロープを利用するというのでそちらを利用した。ただ、スロープの位置を示す表示があまりなく、初めてくる観客には場所が分かりにくそう。しかも、やや傾斜がきつい。コンコースは石畳になっているが、歩きにくいと言うほどではなさそうだ。

  • 観客席

    スタジアムは地下1階、地上6階建て。建物内は基本的にフラットなつくりになっている。観客用ゲートを抜けると、正面に総合案内があり、ここも観客席と同様両サイドのカウンターがユニバーサルデザインになっている。また、売店のカウンターは、すべてユニバーサルデザインになっているようだ。

    ここでデジカメの電源が切れてしまったため、ここからは文章のみでご覧下さい。(文責)

    トイレ等のチェックは後に回し、フロアを抜けてまずはスタンドへ向かう。車いす観客席は1階席(2層にわかれる観客席のうち、1層目の部分)の最上段にあり、観客席全体にまんべんなく配置されている。席数は296席と他のスタジアムに比べて多めで、収容人数51,349人(うち、陸上用グラウンド部分にせり出す可動席が5,236席)のうち約0.5%を占めている。補助席などは配置されていないので、介助者は会場側の用意するパイプいすに腰掛けることになる。

    座席は1階席の最後列にあたる部分(階段2段分)を通路と同じ高さに埋めて車いす観客席を配置しており、スタンド内通路は観客席の後方に位置する。埼玉スタジアムに似た雰囲気だが、通路は埼玉スタジアムのそれに比べて狭い(ちなみに、施設全体の通路の広さは統一してあるそうだ)。ただし、2階席から1階席につながる通路(階段)は通路にはみ出ないように配置してあり、銅線についての配慮がうかがえた。こうした概観の車いす観客席、サイトラインは確保されているか…というと、残念ながらここ「も」ダメ。観客席の傾斜を浅くするなどスタンド全体への配慮はなされているものの、目の前〜3列前くらいの観客に立たれるとやはり見えなくなってしまう。昨年出来たばかりの新設スタジアムだが、事前の調査などでサイトラインについての基準(例えば、アメリカ・サンフランシスコ市の条例など)を参考にできなかったのだろうか、と思う。

    一方、他の競技場ではあまり設置されていない磁気ループ席は静岡スタジアムでは非常に充実している。メインスタンド側の中心部、車いす観客席の1段上の観客席のうち2ブロックが磁気ループ席となっている。正確な数は分からないが、目算で200席くらいはありそうだ。会場備え付けのアンプで試合の実況を行い、専用受信機で聞くというかたちだそうだ。1ブロック丸々磁気ループ席にしている点は高評価。アンプの出力の関係で、磁気ループ席以外でも周辺の半ブロックまでの範囲ならある程度聞こえるというので、車いす利用者も利用が可能となっている。


  • トイレ

    続いて、トイレをチェック。愛野駅チェックの際に見たように袋井市や静岡県は「ユニバーサルデザインのトイレ」に力を入れているようで、このスタジアムも例外ではない。先にみた「ファミリートイレ」は、スタジアム内に26個(一般観客・車いす利用者観客が使用できるフロア(2F)に16個、運営ルームや選手控え室等があるフロア(1F)に4個、4F(エレベーターでしかいけない)に6個)、またスタジアムの周辺に6個の計32個配置されている。施設内だけではなく、周辺にもユニバーサルデザインのトイレを配置している点は評価できる。

    スタジアム内の「ファミリートイレ」は引き戸式。愛野駅は自動ドアになっているので、こちらもそうして欲しかったところ。室内は駅のものより若干広く、鏡も縦長のフラットなもの。設備としては駅でもみたベビーベッドのほかウォシュレットもとりつけられており充実して入るが、ボタンの配置が悪い。非常用ボタンは手前の側と低い位置の2つあるが、ウォシュレットの操作板は奥の、しかも高い位置にあるためせっかくのよい設備がスポイルされている。水洗ボタンの位置は駅のものより手前の側にあるが、紙はその先の低い位置にあって使いづらいなど、ボタン類の配置はちぐはぐな印象を受ける。また水洗ボタン等が配置されている位置に手洗いがついているのだが、これは利用者にとって本当に必要かどうかは、やや疑わしい。

    一般トイレについてもユニバーサルデザインを適用しているとのことで、他のスタジアムのトイレに比べて随分広めに取ってある。男子トイレは通路も広く、小便器も手すりつき、便器の位置を低くしたものなど様々な利用者を想定したつくりになっている。ただし大便器の入口が狭く、車いす利用者が利用しようとするとドアが閉められない。トイレの数の調整等の問題もあるのだろうが、「誰でも同じように使えるようにする」という観点からすれば、この点について配慮が欲しかった。また、女子トイレにはファミリートイレと大体同じサイズのベビーベッドがあるのだが、男子トイレにはそれがない。スペースはあるのだから、配置しても不都合はないだろうし、それがユニバーサルデザインのベッド(埼玉スタジアムにあったような)であればなおよいのだが…。


  • 情報保障

    施設内の情報表示という点では、建物内の通路のところどころに触地図を兼ねた案内板があるほか、トイレの入口にも同様の案内板があるほか、液晶テレビもいくつか配置されているものの、全体的な数は少ない。観客席の案内などは目立つ色分けがされておりそれ自体は見やすいが、天井、壁の上など配置が高く、車いす利用者には見づらい。会場側では、静岡県のユニバーサルデザイン施策にも関わっている静岡県立文化芸術大学の教員(障害当事者の方もいる)の意見を参考にしたとのことだが、車いす利用者は他の人にぶつかられない/ぶつからないように、下の方に視線をやることの方が多く、札幌チェックの際に地下鉄で見られたような床面への案内表示の方が便利だという声がチェック参加者の何人かからあがった。

    また、案内板は日本語/英語が併記されているが、車いす観客席が"HANDICAPPED AREA"という英訳なのはマイナス。いまどき"HANDICAPPED"という英語は用いられない("Chairuser"が一般的)。「ハンディ」という見方は「健常者」の側の一方的な評価であり、「障害者」を「害をもつ人」として見るような発想と根は同じである。「ユニバーサルデザイン」は、何もハードだけの問題ではなく、ソフト面からも考えていかねばならない。あらゆる状態、状況にある人が同じ地平に立っていること、がユニバーサルデザインの基礎なのだから。

    先に述べたように、触地図を兼ねた案内板や液晶テレビなど、他のスタジアムに比べて視覚障害者・聴覚障害者への情報保障は非常に充実している印象を受ける。しかし、視覚障害者・聴覚障害者観客に対する対応が基本的に「ボランティアなどによる人的対応」であるためか、駅、またスタジアムまでの経路に何ヶ所かあった音声案内板や点字ブロックがスタジアム内にはない。駅チェックの際に視覚障害者の方が言ったように、点字を皆が読めるわけではなく、どこに何があるのか、といった音声情報は視覚障害者にとって非常に重要であるし、また人的対応と言っても人数の限界等もあるだろう。このような設備はどこにあっても困るものではないのだから、今後の設置を考えられないものだろうか。

    札幌ドームチェックの際問題になった階段は、こちらでは配慮が行き届いている印象を受けた。手すりは両サイドに設置され、点字シールも貼られている。いわゆる「ダンバナ」(階段のへり)の部分は目立つ黄色で塗られており、視認しやすくしてあってイイ…と思っていたら、視覚障害者の方から「階段がどこで終わるか分かるように、手すりの端の部分を曲げたり、バーをつけるなどしたほうが分かりやすい」という意見が出る。なるほどと思うと同時に、自分の認識の甘さを痛感する。

スタジアム内のチェックを大体終え、1基しかないエレベーターで建物の1階へ降りる。Jリーグ開催時はボランティアスタッフが窓口から誘導して乗ってもらうそうだが、スロープを使う場合も多く、あくまで「補助的」な役割を担っているようだ。


○その5 まとめ…「将来性は一番ありそう」

最後に参加者と会場側の意見交換を30分ほど行った。チェックを行ってみての感想では、これまでに述べてきた問題点についての指摘がいくつかあげられた。簡単にいくつか書き出すと…


<スタジアムまでの経路>

  • 駐車場がスタジアムから遠い位置にある。
  • 道中にベンチがあるのはよいが、トイレがなく、また照明も少ないので夜間は非常に暗い。
  • 周辺の道路に、スタジアムまでの経路を示す標識が若干少なく感じられる。
  • 点字ブロックの側に柱が多いのは、危険。また、丸型点字ブロックの形状は、JIS企画の台形よりも半球形の方がわかりやすいのではないか。

<スタジアム内>

  • 視覚障害者、聴覚障害者への情報保障はある程度なされているが、全体的に情報表示、案内が少ない(スロープの位置、トイレの位置が分かりにくいという声が多かった)。音声表示、床面案内など、「目と耳に訴える情報表示」をもっと拡充すべき。
  • イスの色、階段のダンバナなどは視認しやすい色にしてあって、弱視の人にとっても分かりやすい。
  • 観客席の傾斜がゆるめにとってあるので、段差のテンポがきつくない。
  • ユニバーサルデザインのトイレが多いが、使用者を特定していないため車いす利用者が使用できない場合も多い。かといって一般用トイレの大便器は車いす利用者が使えない広さなので、その点で何をもって「ユニバーサルデザイン」とするのか、会場側の考え方にちぐはぐな部分があるのではないか

…といったところ。

行政の側は「ユニバーサルデザイン」を前面に出しており、それだけの設備も設けられている(特に視覚障害者、聴覚障害者への情報保障やトイレなどに重点が置かれている)が、実際に使われてみると、このうように問題が出てくる部分も多い。ただ静岡スタジアムの場合、設計段階から障害当事者・関係者との意見交換が積極的に行われ、2001年3月の完成以降も、度々意見交換を行い、私たちがチェックした時点で改善されている部分も多くあるという。今回の意見交換でも、会場側からは「予算の都合もありすぐに出来ない部分もあるが、対応できる部分は早急に対応する」という回答が示された。静岡県自体の「ユニバーサルデザイン」施策の推進、スタジアムを含めた小笠山運動公園が障害者国体のメインスタジアムになること、障害者の側の様々な働きかけの「強さ」など様々な要因があってのだろうが、当事者と管理者の間の「交通」がこれだけ実効性をもって持続するというのは非常に評価できる。

ユニバーサルデザインという考え方は、何かはっきりした「答え」や「数字」があるわけではない。「誰にとっても利用が可能である」「誰にとっても等しい状況、環境にある」という抽象的な理念があるだけだ。「ユニバーサルデザインの実現」とは、そうした場/モノをつくる前から、そして実際に出来た後も、それに関わる人たち全ての手で不断にチェックをしながら、更新していく過程に他ならないだろう。「もうつくってしまったので、変更は難しい…」という会場側の関係者が多いなか、静岡スタジアムを運営する側にそうした「ユニバーサルデザインの実現」に向けた意志がはっきりみてとれるのは非常に心強く感じた。


チェックのポイントだけをみれば「可もなく不可もない」点は多いが、当事者と共にバリアフリー/ユニバーサルデザインを実現してきている点では、非常に「将来性の高い」場所だと感じた。こうした競技場、また周辺地域のありかたは、他のチェック箇所にとっても非常に参考になるのではないだろうか。


<次回予告>

さて、昨年の夏から始まったバリアフリーチェックも、いよいよ終盤に向かってきました(まだあと半分ありますが…)。2月は神戸チェック(2/16(土))、そして韓国・仁川のチェック(下旬予定)が行われます。神戸・仁川のチェックは、ついに韓国側・日本側合同でのチェックを実施します。すでにほとんどの会場のチェックを終えている韓国側が、日本の競技場をどのようにチェックするか楽しみなところです。3月は、上旬に大分、中旬に仙台・新潟のチェックを行い、下旬に日本側最後のチェック、横浜でのチェックを、これまた韓国側参加者を招いて行う予定です。

今回は報告が大幅に遅れてしまい、皆さんにご迷惑(?)をおかけしましたが、次回チェックは早急にアップしていきたいと思います。参加できる方もできない方も、是非、神戸チェック・仁川チェックをお楽しみに!

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