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埼玉スタジアム2002 チェック報告

バリアフリーチェックPT(ユースフォーラム・DPI日本会議)
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○今回のチェックは…埼玉スタジアム2002(さいたま市)

  • 日時:2001年11月30日(金) 10:00〜14:00
  • 場所:
    • 埼玉高速鉄道 浦和美園駅−(徒歩1.2km)−埼玉スタジアム2002
    • 埼玉スタジアム2002−(徒歩1.2km)−浦和美園駅
    時間の都合上、先にスタジアムのチェックを行い、その後駅周辺のチェックを行いました。
  • 参加者:18名(フォーラム4名、DPI5名、学生6名、CILくれぱす(埼玉の障害者団体)3名/うち障害者4名参加)
  • 会場側からの参加者:15名(さいたま市職員(スタジアム担当、社会福祉課)、JAOC埼玉担当など)
  • マスコミ:埼玉新聞、テレビ埼玉、東京新聞(埼玉版)、読売新聞(本社運動部)、TBSラジオ
    なお、この事業は「平和と人権に基づく日韓市民交流を促進する日韓NGO共同プロジェクト」の一環として、財団法人 庭野平和財団から助成を受けています。

○<前編>新設スタジアムは、どこまでバリアフリーなのか?

横浜プレテストを含めれば通算4回目となった、今回のさいたまバリチェ。様々なメディアが取り上げた効果もあって、バリアフリーや建築基準等を専攻する学生も参加し、20名近い一団がにぎやかに師走の埼玉スタジアムへ向かうことになった。埼玉スタジアム2002は、この10月にこけら落しとなった新設のサッカー専用スタジアム。最寄り駅となる浦和美園駅も最近新設された埼玉高速鉄道(南北線と接続)の終点ということで、新しい施設で、バリアフリー/ユニバーサルデザインがどれだけ中身を伴って整備されているか、が今回のチェックのポイントになるだろうと感じながら、まずは駅からスタジアムへと向かった。

浦和美園駅から埼玉スタジアムまでは、1km強の歩行者専用通路を歩くことになる。もともとサッカーのために整備されたと言っていい施設、地域なだけに、ある程度の幅を確保した通路は段差や穴ボコもない。評価は出来るが、実際にJリーグやW杯が行われた場合「逃げ道」がほぼここしかない、のは問題かもしれない(これは試合を見てみなければわからないけれども)。

なお、ゲート前のチェーン、ガード(車よけか?)は車いすで通過するには狭い。サイドに迂回路が設置しているが、カーブもキツイため電動車椅子での移動等は大変だろうし、点字等の表示もないように見えた。試合時にはガードを撤去するのかもしれないが、様々な観客が来ることを考え、表示の設置などの改善が必要ではないだろうか?


20分近く歩いてスタジアムへ到着し、埼玉の職員との簡単な打ち合わせ。職員はスタジアム担当、社会福祉課、そしてJAOCの担当者…と20名近くで、参加者ともども長居以来の大人数。スタジアムに関する基本的な事項の紹介の後、プレゼンのビデオを見る。観客席が63,700と、アジア地域ではソウルに次ぐ規模のスタジアムなだけにビデオも手が込んでいた。車いす席(150席)、トイレ(25ヶ所)など「バリアフリーにも配慮しています」との紹介が映されているあたりは、会場側もある程度考えているのだろうか? 細かい点は「チェックをしながらコメントしてもらう」ことにして、いよいよ観客席からチェックの開始となった。

○<中編>スタジアム内…やっぱり見えない車いす席

打ち合わせ会場を後にして、エレベータを使って観客席(1F)へ。150席の車いす席(総観客席数の0.23%、メインスタンド、バックスタンドに半々)へは、一般入場口となるスロープ(後述)から段差なく、すぐにたどりつける。段差の解消は、一度スタンドを造った後に階段一段分の高さを埋めてフラットにしたようだ。競技場関係者も、この点を強調していた。実際スタジアム周辺も含め、段差がないという意味での狭義の「バリアフリー」がほぼ達成されている点は、大きな評価となるだろう。

当日会場側から頂いた資料には、サイトライン(観客の視線確保)について、以下のような記述がある。


「メインスタンド中央最前列からタッチラインまで、わずか14m、サイドスタンド中央最前列からゴールラインまで19m。/観客のサイトラインを確保する、選手ベンチ位置設定。」


それでは、果たして最後列になる車いす席の視線は確保されているか? 答えは「残念ながらノー」。前の観客が立ったとき、また車いすに座ったままでも、試合が行われていたらこれは見えないだろう、という結果となった。職員の方の話では、スタジアム建設に際していくつかの障害者団体から意見聴取を行ったということだが、長居競技場のような「センセイ方からの意見」だけではないにしても、実際の試合の模様なども含め、詳しく意見交換したり考えることができたかどうかは、疑問が残る。移動通路のフラット化、公衆電話のユニバーサルデザイン(設置位置)などはほぼ問題ないと感じられる結果だっただけに、残念だった。

なお、聴覚障害者への対応となる磁気ループ席は、設置されていないとのこと。今のところ、横浜、長居(傾斜の急な最後方の座席だが)以外は磁気ループ席はないようで、この点は今後のチェックや報告で対応を考えなければいけないところだろう。スタジアム内の点字ブロック・誘導表示等もあまり見られず、この点バリアフリーが「段差解消」中心になった点、惜しい。


サイトラインの問題については、会場側も一応の対応をとっているらしい。これまでのチェックではなかった「リフター」の存在である。簡単に言うと、手動のフォークリフトのようなもので、もともと医療用(といっても、どこで使うのだろうか?)の器具なのだそうだ。一台約20万円、埼玉スタジアムには6台用意されている。せっかくあるのなら利用してみたい、ということで職員の方に持ってきて頂いた。

最大40cm上昇できるリフターだが、目一杯上げるのは不安定だし危険(メインの支柱は1本しかない)。ということで普段使用するときは20cm程度の上昇になるという。何人か使用してみての結果は「問題の解消というほどではない」というところ。折りたたみ式の装置であるため100kgくらいの重さまでしか耐えられない、ということで電動車いす利用者は使用できない(電動車いすの重さは60〜60kg、+利用者の体重だと…)。そもそも絶対数が少ないのだから、多くの観客が見に来る試合では使用できる人が限られてしまう。今回参加した埼玉の障害者の方は、このスタジアムのこけら落しも観戦に来たが、その際もリフターは使用できなかったそうだ。

新設でもあり、かなりバリアフリーへの配慮が感じられるが、それでも実際に障害当事者の声が反映されているかというと必ずしもそうではないことが改めて浮き彫りになった。建設までの余裕があっただけに残念。車いすに乗った職員の方も、それを感じてくれただろうか?


スタンドを一通りチェックして、中の施設をチェック。ほぼフル・フラットな施設内を歩きながら、トイレや周辺設備をチェックする。

ユニバーサルデザインのトイレは20ヶ所(担当からは25ヶ所といわれたが、パンフでは20ヶ所)。手動の引き戸(やや重く、マイナス)で男女兼用となっている。埼玉スタジアムのウリのひとつは「トイレ」ということで、男女別で総計1300強のトイレ(観客数の2%)があるというのに比べれば、車いす利用者の観客に対する比率としては高い。しかし、これだけの数のトイレをつくるのならば、ユニバーサルデザインのトイレも男女別にできたのでは、と思う。


そのトイレだが、他の競技場にはない設備としてベッドがあった。洗面台とベッドというと、行ったことはないが「独房」を想像してしまう。ともかく、便座の大きさが選べる(フタはないが2種類の便座あり)ことや、便座に座れない人のためのベッドの設置は、他の競技場よりもバリアフリーへの配慮がなされており、評価できる(ベッドの分部屋が更に狭くなってしまい車いすの置き場に困るという声もあったが、これは高さ調整できるベッドに折りたたみ可能なものがない、とのこと)。一般トイレの鏡に比べ縦長のものにしてある。この点も評価はプラス。ただ洗面台がやや狭く、また、流しのボタン(ノブ)が足元にないという点はマイナス。

一般のトイレ(男子のみ:文責注)も入口がフラット。洗面台、小便器各1ヶ所が手すりをつけている。大便器はひとつが洋式、ほかは和式。大便器の入口は狭いものの、通路自体はある程度の広さを確保している。試合時はどうなるのだろうか?


試合もなく売店は開いていないが、カウンターの高さを変えるなど一定の配慮がなされているようだ。試合時は、売店の前にテーブルをならべての販売も行うということだった。使いやすい高さにカウンターがあるのはいいが、全体的に下げるというのは難しいのだろうか?

一通り内部のチェックも終え外へ出るという段で、気になる点があった。エレベータの「役割分離」の問題である。埼玉スタジアムでは全部で9ヶ所のエレベータがあり、8ヶ所はユニバーサルデザインとなっている(20人乗り? 結構広い)が、ひとつはスタジアム側が「関係者用」として位置付け、こちらには点字表記も、車いす利用者でも使えるボタン等も設置されていない。たまたま私たちがこちらを利用して外に出たので気づいた形になった。

職員の話では「基本的に運営、搬送用として用いるのでこうした」ということだが、だからユニバーサルデザインでなくていいというのはおかしい。何かあった時の移動、だけではなく、そもそも「バリアフリー」なり「ユニバーサルデザイン」は、「誰かのための特別の」ものではなく「誰でも使える」ということだ。運営側にとっても同じ話なハズなのだが。この点では、点字シールの貼付などすぐできる改善をするよう会場側に求めた。

○<後編>駅チェック、そして帰途に…

そんなこんなでスタジアムの外へ。12月の午後だが、暖かい風。地球温暖化が着実に進んでいると思われるなか、スロープを降りながらチェックを行う。

まず目につくのは点字ブロック。会場周辺は、一本道だが一通り整えられているようだ。鹿島のように遠回りするようなことはないようだが、スタジアム内ではなぜ見られなくなるのだろう? 

触地図(点字地図)はスロープを上りきったところにあったが、微妙に位置表示がずれている。駅構内の手すり等にある点字表示もそうらしいが、このような設備をつくるのは別に専門業者ではないらしく、よく間違いがあるのだという。こうした点は、事前に当事者にチェックしてもらうなどの対策や、今後の改善が求められる。なお、外国語表示は英語のみ。今後増やしていくのかどうかについては、評価書の送付に際して改めて聞きたい。


埼玉スタジアムは、入場については基本的に皆スロープを使うことになる。大阪・長居と同様だが、長居は斜度が少々キツく、また石畳になっており車いす利用者にはやや歩きづらい。一方のこちらは斜度が約1/20(20m直線に対して1m上昇)。それほど気になる斜度ではないようだ。路面は柔らかめ(都会の小学校のグラウンドを少し硬くような感じ、でしょうか?)で段差を感じるところはない。それほど問題はないように感じた。


残念ながら時間の都合でチェック後の職員との質疑応答ができなかったが、エレベータの点字シール貼付などすぐできる点については対応してもらうよう伝え、とりあえずスタジアムのチェックは終了。来た道を戻りながら、最寄駅・浦和美園駅のチェックに移る。そろそろ寒くなってきた。やはり冬だ。

営団南北線に直結する埼玉高速鉄道の終点、浦和美園駅。基本的な設計等は南北線のそれに準ずるようで、エレベータ/エスカレータの設置、点字表記、ユニバーサルデザインのトイレ、ホームのゲートなどは「標準設備」になっているようだ。

点字ブロックはスタジアムの方から駅前まで延びている(バス停方面までは延びていなかったが)。改札までのエレベータ前で、「珍しい点字ブロック」を発見。わずかな段差で点字ブロックが切れている。今回のチェックでは視覚障害者は参加していないが、これは視覚障害者にバリアとならないだろうか?

終点であり、かつ試合もないということで駅は閑散としていた。改札も1つしかなく、券売機も5台程しかないのだが、こけら落し(イタリア対日本)では大混雑だったという。臨時窓口等のスペースもなく、大根雑時のアクセスに不安を感じる(一応、ホームと臨時改札(スロープで外に出る)を増設する予定だという)。改札のゲートは、車いす利用者でも利用できる広さのものが窓口側に1つと、これまた不安。


続いて駅構内のトイレをチェック。触地図の位置がやや分かりにくく、かつ触地図の通り行くと、一般用のトイレに行き当たってしまうという指摘があった。ユニバーサルデザインのトイレの位置自体、パッと見、見にくい位置にある。

ユニバーサルデザインのトイレは引き戸式で共用。さし当たっての問題は「紙がない」こと。鉄道会社の駅は軒並みトイレに紙がないので不便。かと言って紙の自販機(一般トイレ前に設置)は車いす利用者には手が届きにくい構造になっており、ここもまた「バリアフリーのいびつさ」が感じられた。このトイレもスタジアム同様、足元に洗浄ボタンがない。また、鏡には傾斜があり、逆に利用者が使いづらくなっている。

ホームにはホームドア(ゲート)が設置されている。南北線は基本的にホームドアを設置しているので、こちらもそれにならったのだろう。先日も東武線池袋駅で車いす利用者の落下事故があったことを考えると、こうした設備は今後どこでも拡充すべきだ。電車とホームとの間の段差は、JRに比べれば小さいもののやはり「ある」。

このままそれぞれ帰路につき、今回のバリチェは終了。

ちなみにこの後、都心でJRに乗り換えることになったのだが(飯田橋駅)、職員の対応は型にはまったものだった。「どの車両に乗るか教えてくれないと困る、一本待って」…やはり最後はJRの対応のまずさが目についてしまった。Suicaの前に、まだやることがあるのではないか。W杯でJRを利用する人は、大勢いるのだし。


○まとめ・次回予告

今回は駅からスタジアムまで新設ということで「大きな失点」はなく、周辺も含めた会場のフル・フラット化、ユニバーサルデザイントイレの設備など、評価点も多い。しかし、上記してきたように基本的な問題として「実際に試合を見に来る障害当事者の声が反映されていない」ことが再び出てきたと思う。今回は車いす利用者からの声が多く出る結果となったが、視覚障害や聴覚障害の人、また外国人などの「まなざし」というものも、今後のチェックでみることができたら、と思う。全体的な評価は、2002年1月の中間報告で、それまでのチェックも踏まえて結果を出すことになろう。

マスコミの関心も高まって来、また参加者が増え(韓国からの留学生も参加し、名実ともに「日韓バリチェ」になった!)たことをふまえ、改めて「日韓バリチェ」の意味、そして当事者のまなざしの重要さを確認し、今後のバリチェを行っていきたい。


○チェック評価

チェック箇所 ポイント
(/満点)
マイナスポイント
175/200 トイレ ・非常用ボタンが手の届くところにない(ヒモなし、下部になし):-10
・扉が重い:-5
・鏡の大きさ:-5
・水洗ボタンが一つしかない:-5
・ティッシュの販売機の位置(紙がないのに):-5
エレベータ 広さ(11人乗り):-10
転落防止 ホームドアの設置:+30
視覚障害者の情報保障 触地図表示に間違いあり:-5
聴覚障害者の情報保障 公衆FAXがない:-10
計:25点マイナス
駅〜競技場 100/100  なし
競技場 140/200 車いす用観客席 サイトライン:-50(リフター…関連事項)
トイレ ・非常用ボタンの位置:-10
・車いすトイレの数が少ない(5〜10人に一穴 22/140):-5
・水洗ボタンが一つしかない:-5
・ベッドつきトイレがある:+10
エレベータ ボタンに手が届かない(ユニバデザインでない):-10
外国人への情報保障 韓国語の案内冊子がある:+10
計:65点マイナス
総計:415/500
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