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神戸ウイングスタジアム チェック報告

文責:きしまさゆき・バリアフリーチェックPT(ユースフォーラム・DPI日本会議)
調査済み・予定の競技場の一覧はこちら

○今回のチェックは…神戸ウイングスタジアム(神戸市)

  • 日時:2002年2月16日(土)13:00〜17:00
  • 場所:三宮(神戸市営地下鉄三宮・花時計前駅)〜御崎公園駅−(徒歩10分)−神戸ウイングスタジアム
  • 参加者:37名(フォーラム約20名、韓国側5名、DPI/地元障害者団体から約12名/うち障害者約8名参加)
  • 会場側からの参加:5名(神戸市、神戸製鋼、大林組)
  • マスコミ:神戸新聞、朝日新聞(神戸版)、毎日新聞(神戸版)、読売新聞(神戸版)、共同通信、ヘラルド朝日
    なお、この事業は「平和と人権に基づく日韓市民交流を促進する日韓NGO共同プロジェクト」の一環として、財団法人 庭野平和財団から助成を受けています。

○その1 日韓共催チェック、始動!

盛夏の大阪から始まったバリアフリーチェックも、残すところあと一ヶ月。短い期間で日本側の残り5会場をチェックするのは大変ですが、近づく春の息吹を感じながら一気に行きたいところです。そんな後半戦の第一弾は、神戸チェック。今回は韓国から二つの障害者団体(障碍人(韓国では障害者を「障碍人」と呼ぶ)便宜施設連帯、障碍友権益問題研究所)、ユースフォーラムのカウンターパートナーであるKYC(韓国青年連合)、そしてメディア(ハンギョレ新聞)から5名(うち障害者1名)が参加。ソウルに続く、日本でははじめての「日韓共催チェック」となりました。韓国でバリアフリーチェックを続けてきたメンバーたちの目に、日本の施設はどう映るのか? が今回のみどころ。


さて、東京から参加のメンバー5名は例によって新幹線を使い、とりあえず新神戸駅まで向かうことに。今回は「多目的室」とも呼ばれる車いす利用者席を利用する。東海道新幹線の場合は決まって11号車の一部分(11号車と12号車の間のデッキを広くとって個室を設置)が割り当てられている。中は、車いす利用者が一人入れるかどうかという狭さ。一緒に行ったOさんの話では、個室は手動車いす利用者を基準につくられているので、電動車いす利用者には厳しいつくりになっているという。また、お隣・真向かいとトイレが集中しているので少々臭う上、扉を閉めているとトイレに間違えられることもある。ただでさえ圧迫感のある部屋だし、扉を閉めると車内販売の人も寄らないなど(そのため、写真のように扉を「閉めない」利用者は少なくない)、個室は「つかえない」部分が多い。今回は新型の700系車両に乗ったが、配置やスペースに工夫が欲しいし、それ以前に一般客席を取り外し可能にするなど柔軟な対応をして欲しい。車いす利用者が集まって旅行する場合も多々あるだろうし。

東京から約3時間ほどで新神戸駅へ。ホームにはホームドアがあるが、列車とホームとの隙間がかなりある。むしろこちらの方が気になってしまった。エレベーターは上り・下りとも一基ずつしかないが、W杯開催に合わせてか、増設工事が行われていた。なお、JR西日本の大きな駅では、写真のように案内表示の一部が多言語表記になっている。新神戸駅では出口表示のみ、日本語・英語・韓国語・中国語表示をしているようだ。他の表示についても今後対応するのだろうか?これは他の交通機関でも是非導入して欲しい。

職員が鍵で管理するエレベーターを出て、コンコースで他の参加者と合流。ユースフォーラムの関西メンバー、神戸・大阪の障害者団体の方々、そして韓国からの参加者と、その数合わせて30人以上。長居チェック以来の大所帯になった。ここで簡単にブリーフィングを行い、チェック地へつながる地下鉄の乗換駅、三宮に向かう。

新神戸から三宮までのアクセスは市営地下鉄(西神・山手線)が便利、というか他には車しかない。で、JRからその市営地下鉄までのアクセスがよろしくない。エレベ−ターが一基あることはあるが、JR改札、地下鉄改札双方から結構離れている。

今回のチェックでは車いす利用者が10名近くと多かったこともあり、東京組は他の経路についても調べてみたのだが、そこはやや狭い階段とエスカレーターしかない「通路」。その上、東京で言うと千代田線並に深いところに改札やホームがあるため、写真のように何度もエスカレーターで降りざるを得なかった。エスカレーターでの昇降は常に落下の危険がつきまとい、とくに電動車いす利用者には恐怖。エスカレーターの増設など、駅間のアクセスの改善が早急に望まれる。


そんなこんなで苦労しながら地下鉄の改札に到着。通路にとりたてて段差はない。早速いくつかの設備をみてみる。券売機は最近オーソドックスになった形のもの。一応カウンター(銀色の部分)をつけて車いす利用者が入りやすいようにしてあるが、車いすの入る部分が浅いこと、またボタンの位置が高いところにあるため、使いづらくなっている。JR東海(静岡チェックの報告を参照)やJR西日本と同じタイプのものだが、券売機はより改善が必要なようだ。改札はすべて自動改札だが、車いす利用者が通れるのは有人改札の部分のみだった。

改札部分、構内とも点字ブロックが敷き詰められているが、この点字ブロックが珍しい形をしている。写真をご覧いただくと分かるとおり、JIS規格の進行/警告ブロックを合わせたような感じ。これは、1979年に神戸市が全国に先駆けてバリアフリーを意識した「まちづくり条例」を制定したとき、市が独自の規格で設置したものだという。新しい駅などは現行のJIS規格のものもあり、神戸では数種類の点字ブロックが混在していることになる。この形状は、警告ブロック(「方向転換」や「止まれ」などを示す)と進行ブロックの区別が曖昧なため(半球型の突起は、通常警告ブロックに使われている)、他の地域からこの点字ブロックを利用する人には分かりづらい構造になっている。チェックの中で、他の地域に比べて点字ブロックが敷設されているところが多いな、という印象をうけたが、点字ブロックの規格は他の地域と合わせたほうがいいのではないか?

また、音声案内や電光掲示板など、他の情報保障の設備は、この駅では見ることが出来なかった。

ホームまではエレベーターが完備されている。神戸市営地下鉄は全線に配備しているようだ。大きさも26人乗りと大きめ。

○その2 三社三様三宮・駅チェック

電車は一駅で三宮へ。神戸の鉄道網の要衝ともいえるこの場所は、阪急・阪神・JR・地下鉄が乗り入れる一大ステーション。私たちの目的地・神戸ウイングスタジアムへのアクセスで利用する人も多いだろうということで、今回のチェックでは利用しない阪急・阪神・JRの各駅もチェックすることになった。結論から言うと、使いやすさは順に「阪急・JR・阪神」となる。一概に順付けできない部分もあるのだが、参加者からの意見をまとめるとこうなる。駅間のアクセスは、地下鉄三宮駅からはどこもフラットでいけるようだ。

阪急は公共交通機関のバリアフリー施策が本格的に動き出す前から、駅へのエレベーター設置などに力を入れている。多くの路線で各種バリアフリー施策が実施されているようだ。三宮駅は地上から改札まではエレベーターが設置されている。残念ながら改札からホームまではエスカレーターしかなく、公衆FAXも置かれていないものの、今後エレベーターを増設するなど改善をするようだ。券売機は三社のなかでは一番扱いやすい。チェックした韓国側参加者によると、駅員の対応も非常によかったそうだ。


JRは可もなく不可もないという評価。エレベーターは設置されておらず、車いす利用者の移動はエスカレーターが用いられる。全体的には、「よくあるJRの駅」といったところか。ちなみにこちらの公衆電話はユニバーサルデザインではなかった。

文責がチェックしたのは阪神三宮駅(なので、この章の写真はすべて阪神三宮駅のもの)。地下鉄からのアクセスは、特に段差もなく向かうことが出来た。点字ブロックは道中途切れることがないが、阪神の敷地内からは点字ブロックがJIS規格のものになっている。視覚障害者の方が混乱しないだろうか心配。

券売機は、ボタン式で種類も少なく操作は簡易なようだ。車いす使用者の高さに配慮した券売機もある。また、点字料金表や写真のような触地図もあって視覚障害者向けの情報保障も大分配慮されている。ただ、三社ともそうなのだが、こうした視覚障害者向けの情報保障の設備に「音声誘導」がないのは残念。せっかくいい設備があっても、「それがどこにあって、どう行けばいいのか」が分からないと、宝の持ち腐れになってしまうだろう。聴覚障害者への視覚的な情報保障は特別なものはない。ただ、照明が暗いので若干見にくそうだ。

設備面以外での細かい対応は、阪神では有人改札を兼ねる「駅長室・団体受付」で行うようだ。有人改札とJRの「みどりの窓口」を合わせたようなつくりで、部屋を写真にあるように部屋を横切って構内に入るしくみになっている。通りにくいということはないが、車いす利用者の英語表記が"Handicapped"になっているのはいただけない。

10人ほどでアポなしで行ったためかどうか分からないが、駅員の反応が随分と冷たい。曰く「利用客が多い日に来られるのは困る」「本社に許可をもらってから来るのが普通だ」「写真をとられると肖像権の問題が生じる」…と、非常にナーバスな対応。こんな対応は初めてだ。改札からホームまでは階段しかないため、エスカルやチェアメイトはないのか伺うと、「見学者の方にそこまでしなきゃいけないのか」と言わんばかりの表情で、渋々エスカレーターでの乗降を手伝う始末。HPなどで確認したところ、阪神三宮駅はチェアメイトを用意してあるとのことだったが、私たちが利用することは出来なかった。

阪神電鉄が、突然の来訪にとまどってこのような対応になったのか、それとも普段から車いす利用者や見学者にこうした対応をとっているのか、それは今回のチェックだけでは分からない。だが、私たちは別に「チェックのための特別な配慮や準備」を求めているわけではない。「普段の駅」がどれだけ障害者を「当たり前の利用者」としてみているかをチェックしたいだけなのである。駅の側も、仕事に差し支えない範囲で自分たちの設備や施策について答えていただければいいだけの話なのに、あそこまで「非常事態だ!」的な態度で接しなくてもいいのに、と思う。どれだけ設備面で努力していたとしても、人的対応が悪いと駅の印象は一変してしまうのだから。

そんなこんなで後味悪くホームへ。かなり時代物のホームの一番奥に、男女兼用のユニバーサルトイレがある。相当以前に作られたようで、重い引き戸を開くと横長の狭い部屋が現れる。横長のユニバーサルトイレは身動きがとりづらく、車いす利用者は非常に使いづらい。洗面台は小さく鏡は傾斜があってマイナス。非常用ボタンが便座から遠く離れた隅にあるので、あまり意味がなくなっている。紙は私たちがチェックした際にはなかった。紙の自販機はトイレの手前に設置されているが、普通の紙自販機なので扱いづらそうだ。

何より、汚れてはいないがトイレが臭い。長居チェックの際もそうだったが、関西の鉄道のユニバーサルトイレの多くは妙に臭かったり汚れているものが多い。それが関西の「一般的特徴」では勿論ないだろうが、利用者のことを当たり前に考えてほしいものだ。


三社とも総じて「大きな問題」はないが、かといって「とりわけいいところ」があるわけではない。設備の不足を人的対応で補うという点で、差がついたように思う。どの駅についても求められるのは、より充実した情報保障だろうか。とくに、音声案内と電光掲示などが必要だと思う。

○その3 いざ、スタジアムへ

各駅のチェックを終え、三々五々市営地下鉄へ。地下鉄までの道中にも点字ブロックが敷かれているが、これも神戸市規格のもの。しかもショッピングモールの床にあわせ、目立たない茶色に塗装されているので視認しづらい。デザインが機能に優先した典型的な例だ。

ウイングスタジアムの最寄り駅である御崎公園駅は、新設された市営地下鉄・海岸線にあり、三宮(三宮・花時計前駅)はその始発駅となっている。駅までのアクセスは、駅が入っている商業ビルのエレベーター(27人乗り)もあり、割合スムーズ。駅自体も新設で、非常にきれい。これまでのチェックで言うと、浦和美園駅・愛野駅に近い。

まず目についたのは公衆電話。どの路線もこのように、車いす利用者対応のものが置かれていた。券売機は新神戸駅で見たものと同じような形状だが、こちらはタッチパネル式。ただ、使い勝手は新神戸のものと変わらない。

券売機、改札、エレベーター、ホーム…と各所に音声誘導を設置してあるのが海岸線の特徴なのだそうだが(各駅で、その音声を録音したCDを「貸し出し」している)、少々手が込みすぎたか、他の音に負けているようだ。もっと音を大きくして、音だけでなく声も入れられれば、より使いやすいものになるだろう。


自動改札(車いす利用者が有人改札を使うことになるのは、新神戸駅と同じ)を抜けて、構内に入る。こちらのユニバーサルトイレは、愛野駅などでも見られた「多目的トイレ」。トイレの前にはご覧のような触地図付きの案内板がある。男女トイレともにベビーベッドが設置されているのは高評価。しかし、トイレまでの案内はこの触地図と点字ブロックのみで、惜しい。

ユニバーサルトイレは心もち広め。洗面台は広めにとってあり、鏡も縦長のフラットで使いやすそうだ。ただ、水洗ボタンが背中の高い部分にあるのはマイナス。非常用の呼び出しボタンも、高めの位置に設置してある(上のボタンは紙の位置よりはるかに上にある)ため、実際の利用では苦労しそうな気配。

新しく作った分、フォーマットはよくなっているが配置の部分で問題が多いトイレになっている。今後の改善に期待したい。


トイレを見て、ホームへ向かう。エレベーターは海岸線はほぼ完備されているようだ。大きさも27人乗りと、神戸のエレベーターはどれもある程度の広さを確保していることが分かる。また、こちらのエレベーターにはカメラがついていた。カメラの映像は、乗降口の右上にあるモニターで見ることが出来るようになっている。「犯罪防止」を考えた措置のようだが、自分がエレベーターに乗っているのを他人に見られるのはあまり気分がいいものではない、気もする。

ホームはやや狭めで、ホームドアは設置されていない。駅員がスロープ板を渡して列車とホームの隙間を埋めている。新設の駅だが、ホームドアをつくるところまでは手が回らなかったか。

電車は大江戸線ほどの大きさで、少し狭い感じがした。三宮・花時計駅から15分ほどで、目的地の御崎公園へ。こちらも基本的な構造は、三宮・花時計駅と変わらなかった。ただし、改札はひとつしかなく、チェックの際も搬送用の扉を開いて改札の対応を行っていた点が、混雑時の不安を感じさせた。

○その4 ついに見えた! 神戸ウイングスタジアム

地上に出ると、そこは地方中核都市のような住宅街。これまでのチェックではこうした光景をみたことがない。事前に地図で確認はしていたが、ウイングスタジアムは本当に「住宅地のエアスポット」になっているようだ。

駅からスタジアムまでは、10分〜15分という近さ。スタジアム専用駅でない駅で、このくらいの近さというのは評価できる。路面はそれほど段差もない。点字ブロックがずっと敷かれているが、これも神戸市規格のもの。

道中、韓国からの参加者と話しながらスタジアムに向かう。韓国でもここ数年で都市部のバリアフリー化が進み、道路事情は大体日本と変わらなくなってきているそうだ。文責が2年程前ソウルに行ったとき、車道を猛スピードで車が飛び交い、わずかな歩道はいたるところ掘り返されていたことを思うと、韓国の「一旦やると決めたら、ものすごいスピードでコトをやりきる」力には脱帽する。行政の実効力だけではなく、今回参加した障害者団体やNGOの積極的なかかわりがあってこそ、整備がスムーズに進んでいるのだろう。こうした点は、是非日本のなかでも参考にしたいものだと思う。

スタジアムの手前には、歩道橋がある。階段と共にスロープも設置されている。こうしたタイプの歩道橋を備えているスタジアムは、それほど多くないように思う。


歩道橋を背にすると、そこが神戸ウイングスタジアム。隣がアパートなので全景は見ることができない。あらためて立地の特異さが分かる。

施設入口のロビーで、会場側担当者の方からブリーフィングを受ける。今回説明に来たのは神戸市役所の方、そして神戸製鋼と大林組の方。なぜ企業が? と訝ったが、これにはちゃんと理由がある。神戸ウイングスタジアムは「公設民活方式」という事業形態で管理運営されているからである。これは、主たる施設整備(土地取得とか、初期投資)は神戸市が行うが、「事業計画から設計・施行及び事業運営に至るまでを一貫とし民間活力を導入することで、効率的で経済的な建設・維持管理を目指す」(パンフレットより抜粋)ものだという。受注のコンペで神戸製鋼・大林組JVが選出され、もともとあったスタジアムを改修してウイングスタジアムをつくっている。そのため実際の管理運営はもっぱら神鋼・大林組が担っているので、これら企業の担当者が出向いてきたというわけ。

W杯を「地域振興の決定打」と見込んで、ハコをつくって熱心に誘致活動、湧き出る赤字は税金で補填…という例が既に各地で見られているなか、「ゼニにならなければどうしようもない」ことを前提にする企業に運営管理を委託するのは、ある意味で「正しい選択」なのかもしれない。阪神・淡路大震災で財政のマヒした神戸市がやむなくとった選択、という見方も出来るが、このご時世にはそった選択でもある。だったら神戸空港はなぜ…という疑問もわくが、それはまた別問題、なのだろうか?

とまれ、今までのチェックは行政とのやり取りが中心だったが、ここは企業も相手になる。今後、こうした事業形態が、他の自治体でも増えるだろうことを考えると、私たちNGOや市民運動の活動のありようも変わってくるのかもしれない…そんなことを考えさせられる、特徴的な運営管理形態ではあるが、企業がまるまる設計管理運営するこのスタジアムは、十分なバリアフリー施策を行っているのだろうか? 今回のチェックのみどころがまたひとつ、増えたようだ。


担当者の案内で、まずはバックスタンドからチェックすることに。バックスタンドは基本的に階段のみだが、W杯後の改修工事でスロープを設けるようだ。現在は、「車いす専用」のエレベーター一基で対応している。案内板は日韓中英と、4つの言語で表記されている。パンフレットも含め、案内は既に4言語に対応している。これはプラス評価。ただし、ここも車いす利用者の英語表記が"Handicapped"になっていた。チェックの際は白い紙で隠されていたので、これは今後改善するのだろう。

エレベーターで2階のコンコースに上がって、スタンドへ。コンコース自体は開放的で、フラット。スタンドへつながる通路も、埼玉スタジアムほどではないが広めにとってある。


さて、いよいよ車いす観客席をチェック。参加者がそれぞれ席につくや否や、方々から歓声が沸く。別にキング・カズが拝めたのではない。

「見える!」

そう、この車いす観客席は、サイトラインが確保されている! ある意味「イレギュラー」な鹿島スタジアムの最前列席をのぞけば、一般観客席と同じ位置にある車いす観客席のサイトラインが確保されたのは、日韓双方で初めてのこと。私たちも6会場目にして初めて、「あたりまえの」車いす観客席を目にすることになった。喜ぶ私たちに、「してやったり」な表情の会場側担当者。なんかちょっとだけ「やられた」感がするのは、なぜ?

会場側担当者によれば、神戸ウイングスタジアムは日本側会場のなかでは最後に改修工事を行い、最も短期間で竣工したものだという。改修にあたっては「他のスタジアムの問題点等を十分に配慮した」ということで、車いす観客席も「見える」ことを十分に意識して設計している。聞けば当たり前の話だが、それが出来ていないスタジアムが圧倒的なので、それが特別に聞こえてしまうのはさびしい限りだ。

バックスタンドの傾斜をメインスタンドに比べてやや急にしていること、そして車いす観客席を作るにあたって、一般観客席2つ分を埋めて、通路と同じ高さにあわせたことで、サイトラインが確保されたようだ。

車椅子観客席は、メイン・バック合わせて70席。サイドスタンドにはない。他の会場に比べればその数は少ないが、他の会場が「質より量」の整備を行って、「見えない席」を大量につくるか、車いす観客を「隔離」してしまうかのどちらかの結果に終わっているのに比べれば、神戸は大成功だろう。

スタンドの通路の広さは、静岡スタジアム並。広さではやはり、埼玉スタジアムに軍配が上がる。階段が通路を塞ぐことがないよう工夫がされているのは、札幌や静岡と同じ。


この後コンコースに戻ってトイレを見て、一旦外に出てそれからメインスタンドへ向かったのだが、ここでは先にメインスタンドの模様を再録して、それからトイレ等他の設備のチェックを報告しようと思う。


メインスタンドには、最初に入った施設入口のところまで戻って、そこからスロープを使って向かう。このスロープ、そしてサイドスタンドの2/3は仮設のもの。W杯終了後、仮設スタンドを撤去し、更に再改修を行う際、全体にスロープを渡すのだという。さすが営利企業、考えることが理にかなっていると言えようか。他のスタジアムが「W杯対応の人数」にこだわって今後辛酸を舐めるだろうことが容易に予想できる昨今では、このやり方はアタマがいい。

鉄板と鉄骨でつくられたスロープは、それほど歩きづらくはない。再改修にあたっては、出来るだけ緩めにつくって欲しい。


サイドスタンド同様、コンコースから通路を経て、メインスタンドへ。目の前が、ちょうど車いす観客席になっている。先程同様に歓声があがる…かと思ったら、こちらは

「…見える…か? 見えるか。ん〜」

という、微妙な声。メインスタンドはバックスタンドより幾分傾斜を緩くしてあるので、先程とピッチの見え方に差があるので、感覚が違うようだ。

それでも、他のスタジアムとは車いす観客席の見え方が格段に違う。一般観客が立ったときの高さより高い位置に、車椅子観客の目線が来るようになっているので、ここも「合格」。車いす体験をした担当職員の方も、心なしか満足げ。これで車いす観客席の数も倍近く確保できたら、もう言うことなし! の評価になるだろう。


車いす観客席はこんな感じでほぼ最高の評価。大型モニター(「オーロラビジョン」)もスタジアムの対角線に2つ設置されており、スタジアム内はどこからでも映像情報をみることができるのはいい。モニターはその他、メインスタンドに向かうスロープの手前(施設入口の上)にもあるが、施設内外に他の視覚/音声案内はなく、コンコース部分も柱部分以外に案内表示がない。ここまで配慮するならこの点も充実して欲しかったもの。とくに、バックスタンドに向かう経路には情報を得る設備がないため、非常時の対応に不安は残る。再改修の際には改善して欲しい。また、磁気ループ席が設置されていなかったのは、マイナス。


続いて、トイレチェックの再録。静岡のように、「トイレ全体のユニバーサル化」を目指したようで、ユニバーサルトイレは「多目的トイレ」扱いになっている。男女兼用で12個。総観客席が42,000席であることを考えると、車いす利用者にはやや少ないかも。最近は写真のような触地図がスタンダードになりつつあるようで、スタジアム内のトイレの前には必ず触地図が設置されている。ただ、先に述べたように、せっかくこうした触地図があっても「それがどこにあるのか」を示す情報が他にないため、全体的には「位置が分かりづらい」ということになる。

その「多目的トイレ」はご覧の通り。他のスタジアムのユニバーサルトイレに比べると、やや狭い。洗面台・鏡は問題がないが、手すりの配置がやや悪いため、車いす利用者の移動範囲が限られてしまうという難点がある。

水洗ボタン、非常用呼び出しボタンとも完備されているが、手すりのためにやや使いにくい。

一方、一般トイレ(男子用)は入口、内部とも広めにとってある。便器、洗面台共に二つずつ、手すりが設けられている。小便器はどれも大きなものを使っているので、立ち位置に関係なく誰でも使えるようにはなっている。

どのトイレにもベビーベッドが設置されているのをみると、これはこれからの公衆トイレの「常識」になるのだろう。これにユニバーサルベッドやオストメイト用トイレも常設されるようになれば、さらに「誰にでも使える」トイレになっていくと思う。今後の改善では是非検討して欲しい。


この後、何人かで駐車場も見せてもらった。100台収容できる駐車場は、20台分を車いす利用者用のスペースにしてある。他の競技場に比べると、競技場から同じ距離でいける駐車場にこれだけのスペースを用意しているのは評価できる。


全体的に、「余計な部分には金をかけない、シンプルなつくり」が印象的だった。企業の管理運営らしく? 「客優先主義」が、とりわけスタンド内の設備には見られたが、情報保障という点では不足の点が多い。今後の改善では、とくにこの点を中心に行って欲しいところ。特に緊急時の誘導ではもっと配慮が望まれる。

○その5 まとめ・次回予告

その後、会場を移して交流会、そしてこれまでのチェックについての報告会を行った。韓国側参加者からは、駅(阪急)、スタジアムのバリアフリー施策が充実している点が印象深かった、という意見が多く聞かれた。また、韓国での活動についての報告も若干なされた。韓国では、2月24日の仁川チェック(日韓共催)で10会場全てのチェックを終えるとの発表がなされた。むむむ、韓国は早い!詳しいチェック結果は全てのチェックを終えてから出すようだが、スタジアムまでのアクセス(バスしか交通手段がないところが多い)、車いす観客席のサイトラインに問題が多いという。日本とそれほど状況は変わっていないようだが何せパワーのある韓国だけに、改善も早いかもしれない。こちらも気を抜かず頑張りたいもの。


今回のチェックでは、見える車いす観客席にめぐり合えたことは勿論のこと、「企業が全面的に運営するスタジアム」という新しい形態を見たことが印象的だった。企業と私たちがどのように意思疎通をし、相互関係を築いていくかは、バリチェによらず市民運動やNGOにとってこれからの課題になるだろう。

問題点としては、交通機関のアクセス、とくに複数の会社・路線がまたがる駅での相互の交通の便、そして情報保障のありかたという点があがった。他の開催地同様、交通機関と開催側の連携はより密に求められるだろう。


3月まで駆け抜けるように続くチェック、次回は2月24日(日)・仁川(韓国)チェック(仁川文鶴スタジアム)、そして3月2日(土)の大分(大分県スポーツ公園メインスタジアム・ビッグアイ)です。大分は開催地では最も西のスタジアム。事前の情報では「大変なところ」という話も出ていますが、果たしてどうか? 参加される方もされない方も、仁川チェック報告とあわせ、是非ご期待ください!

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